キリンビジネスシステム株式会社

経営企画部PMOグループ部長 滝田毅彦氏
キリングループの情報システム開発における
標準ツールとしてXupper II を導入

 キリングループの情報システム開発を担うキリンビジネスシステムでは、品質を維持しつつ開発生産性を向上させることを目的に、新たなツールの導入を検討。ツール自体の評価や自社開発標準のカスタマイズといったプロセスを経て、標準ツールとしてXupper IIを正式適用した。MDFrame/Xについても段階的にパイロット適用を行っており、間もなく正式適用となる見込みだ。

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DOAをベースに開発標準を確立、そしてXupper II導入へ

 キリングループは2007 年7 月にホールディングス制に移行。これに伴い、キリンビールの子会社であったキリンビジネスシステムは、新たにグループ内の機能分担会社として位置付けられた。現在、キリンビールやキリンビバレッジをはじめとする各事業会社は社内に情報システム部門を持たないため、キリンビジネスシステムはグループ唯一の情報システム会社として、グループの情報戦略を実行し、システムインテグレーションやユーザサポート、e- ビジネスなどのサービスを各事業会社に提供している。
 同社では、古くからDOA(Data OrientedApproach)を開発に適用してきた。1989 ~1992 年には、キリンビールシステム開発部において、ウォーターフォール型開発を対象に開発工程を標準化するとともに、DOA をベースとした上流工程での分析方法を標準化。これが、「キリン開発標準」および「キリン情報要求分析標準」である。
 1998 年には、スパイラル型のRAD(RapidApplication Development)開発と従来のDOA の考え方を融合した新たな方法論である「DOA-RAD」をデータ総研と共同で開発。その後、2003 年には方法論のオープン化対応としてキリン開発標準の改訂を行い、Javaフレームワークの適用を前提とした「DOARADfor Java」をケン・システムコンサルティングと共同開発している。そして2008 年、上流工程から下流工程を一貫してサポートするための標準ツールとして、Xupper IIおよびMDFrame/X の導入に至った。
 なお、同社ではソフトウェア開発のV モデルに運用フェーズも付加した「W モデル」を掲げている。これは、運用の生産性低下などの問題は開発時にすでに埋め込まれており、問題を元から断つ必要があるという考えに基づいたものだ。現在、開発ではXupper IIとMDFrame/X、そして運用ではSQETというツールが標準として採用されているが、これらの標準ツールもすべてこのW モデルをベースに適用されている。

開発工程のVモデルに運用工程も含めて拡張した、キリンビジネスシステムの「Wモデル」

品質を維持しながら開発生産性を向上するために

 キリンビジネスシステムがXupper IIおよびMDFrame/X の導入プロジェクトを開始したのは、2007 年1月。その背景には、サービスを提供するユーザ企業(事業会社)の増加、ユーザ企業の施策スピードに合わせたさらなる短納期化への対応などがある。また、手組み開発における生産性向上も課題とされていた。
 そこで同社では、品質を維持しつつ開発生産性を向上させることを目的に、ツール導入を検討。具体的な目標としては、開発効率の向上、保守効率の向上、資産の管理といった定性目標とともに、開発工期2/3(=トータル開発生産性1.5 倍)という定量的な目標も掲げた。
 2007 年3 月までの間に、同社では生産性向上のための仮説を設定。「上流から下流までを一貫して管理することで手戻りを排除する」、「自動化できる部分を極力機械化することで手作業を排除する」、「リポジトリで一括管理することで保守工程の負荷を軽減する」という3つの仮説のもと、2007 年4 月よりXupper IIとMDFrame/X の評価を開始した。
 評価フェーズでは、サンプルプログラムとして社内で使用するシステムの27画面を対象に、実際にXupper IIおよびMDFrame/Xを使って設計・開発を実施。その工程で評価を行った。なお、実際の開発プロジェクトでは、特にMDFrame/X を使うような工程は開発協力会社が主体となって行う。そこで、評価にあたっては主要な開発協力会社のメンバーにも参画を依頼。ケン・システムコンサルティングも、第三者的立場で評価に協力した。
 約6 ヵ月間にわたる評価の結果、リポジトリによる設計情報の一元管理や設計変更の影響分析など、Xupper IIは十分に開発生産性の向上が期待できると判断された。一方のMDFrame/X については、細かい使い勝手の部分で改善の余地があるとされ、補助機能の拡充などの「条件付きで生産性向上が期待できる」という結果になった。

キリンビジネスシステムにおけるXupperIIおよびMDFrame/Xの導入プロセス。MDFrame/Xは2009年より正式適用となる予定

標準ツールとして定着させるための仕組みづくり

 続いて、2007年11月から2008年3月にかけては標準化を実施。このフェーズでは、キリンビジネスシステムの推進メンバーのほか、ケン・システムコンサルディングとデータ総研の2 社が参画した。両社の協力のもと、キリン開発標準をカスタマイズして標準ルールを設定。さらに、Xupper IIによるTH モデル表記法を制定し、「DOA-RAD for Xupper II」という新しい開発方法論を生み出した。
 標準化のフェーズを終え、Xupper IIが正式適用されたのは2008 年4 月。ただし、MDFrame/X はパイロット適用という位置付けだ。
 なお、Xupper IIとMDFrame/X を利用できるのは、キリン社内ネットワークに接続可能な環境のみ。社外からの接続はネットワークセキュリティ規定上の条件をクリアした場合に可能となるが、現時点では不可となっている。また、利用対象者は開発担当者および運用担当者に制限。Xupper IIで設計した各種ドキュメントはHTML やExcel に出力できるので、ユーザである事業会社の担当者にはそれらを見せることで利用対象外とした。
 ツールの適用基準としては、特に金額や規模での限定はせず、手組みの新規開発すべてを対象としている。ただし部分改修は除き、サブシステム単位で再構築となるような案件以上が対象だ。Xupper IIは標準ツールとしての正式適用なので、対象案件については特別な理由がない限り適用することが義務付けられる。MDFrame/X については2008 年を準備期間として位置付け、各部で選定した案件のみを対象に適用。パイロット適用での課題を踏まえて第2 フェーズの標準化を行い、2009 年からの正式適用を目指しているという。
 設計情報の整合性をXupper IIにて保持できるように、改修時はすべてXupper IIから再設計するというルールも徹底している。Xupper II以外で作成するすべてのドキュメントも、Xupper IIのツールナビゲータで管理。また、C# の直接コーディングは基本的に不可とし、マクロ類も手作りするのではなく、共通部品としてケン・システムコンサルティングに開発依頼することにしている。つまり、人がプログラムに手を入れる部分を最小限に抑え、開発はすべてツールで管理するのが原則だ。
 キリンビジネスシステムでは今後の課題として、全体の管理者や標準部品のメンテナンス担当者、開発現場での推進キーパーソンなどを含む社内体制の構築を挙げている。また、開発協力会社にキリン開発標準を十分理解してもらうことも不可欠としている。これらはいずれも「人」に大きく関わる要素といえる。今回導入したXupper IIなどの「ツール」やキリン開発標準のような「方法論」に加えて、それらを適切に使うことのできる「人」が三位一体となることで、さらなる開発生産性の向上が実現できるだろう。

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